それは身長六尺を超えるかと思われる巨人(おおおとこ)であった。 顔が馬のように長くて、皮膚の色は瀬戸物のように生白かった。 薄く、長く引いた眉の下に、鯨のような眼が小さく並んで、 その中にヨボヨボの老人か、または瀕死の病人みたような、青白い瞳が、力なくドンヨリと曇っていた。 鼻は外国人のように隆々と聳(そび)えていて、鼻筋がピカピカと白光りに光っている。 その下に大きく、横一文字に閉ざされた唇の色が、 そこいらの皮膚の色と一と続きに生白く見えるのは、何か悪い病気に罹っているせいではあるまいか。 殊にその寺院の屋根に似たダダッ広い額の斜面と、軍艦の舳先を見るような巨大な顎の恰好の気味のわるいこと…… 見るからに超人的な、一種の異様な性格の持主としか思えない。 それが黒い髪毛をテカテカと二つに分けて、 贅沢なものらしい黒茶色の毛皮の外套を着て、 その間から揺らめく白金(プラチナ)色の逞しい時計の鎖の前に、 細長い、蒼白い、毛ムクジャラの指を揉み合わせつつ、 婦人用かと思われる華奢な籐椅子の前に突立っている姿は、 さながら魔法か何かを使って現れた西洋の妖怪のように見える。 魔著、夢野久作『ドグラ・マグラ』。 登場する若林鏡太郎博士を再現すると、こうなる。んじゃないか。 映画版の室田日出男も全然イイはイイと思う。正木博士も。 |